ふと歩みを止める行為というのは、大抵あまり良い兆しではない。
純子が真夜中の道中でふと歩みを止めたのも、視界の端に異様な光景を捉えたからだ。羽虫が群がる街灯の下に、小学生ぐらいの少年が俯きながら座っていたのだ。
当然最初は見間違いを疑った。錯覚や思い込みである方が、一瞬の緊張で終わる。しかし、その少年はまやかしでも幽霊でもなく、確かにそこに存在していた。さらにその少年のいた場所が、ゴミ捨て場であったことが、余計に純子の恐怖心を煽った。
「ぼく、一人?」
恐る恐る問いかけた純子の言葉に、少年は小さく頷く。
「こんなところで何してるの?」
「捨てられた」
その言葉は、石槍が胸に突き刺ささったかのように響いた。
嫌な予感は当たっていた。しかし本当に捨てられたのか、それとも自らが望んで自分を捨てたのかまでは判断しかねた。
純子は少年をこのままにしておくわけにはいかないと思い、近所の交番まで連れて行くことにした。
「こんなところにいたら危ないよ。お巡りさんの所に行こう。一緒に連れて行ってあげるから」
すると少年は首を横に振った。
「ダメだよ。僕はゴミだから。ここにいなくちゃ」
それから何度か純子は少年を説得したのだが、同じような言葉を繰り返しては頑なにゴミ捨て場から動こうとはしなかった。
それならもう警察の方からここに来てもらうしかないと思い、純子は携帯を使い警察に連絡をすると、近所の交番から数分後、この場所に来てくれることになった。
警察を待つ間、純子は少年に対して何かできることはないかと思案していると、少年が蚊の鳴くような声で何か呟いた。
「ん? 何か言った?」
すると今度は純子の目を真っ直ぐ見つめて少年が言った。
「ゴミ……拾ってくれないの?」
訴えかける少年の瞳は、ゴミとは全くもって似つかわしくないほどに澄んでいて、深い皺が刻まれた純子の顔を映していた。
「ねえ、僕のこと思い出してよ。お祖母ちゃん」